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第13回 不正競争防止法違反に対する制裁と救済措置

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第13回 不正競争防止法違反に対する制裁と救済措置

第13回 不正競争防止法違反に対する制裁と救済措置

2024/12/17

第13回 不正競争防止法違反に対する制裁と救済措置

 

はじめに

不正競争防止法は、企業間の公正な競争を保護するために、日本で制定されている重要な法律です。この法律は、営業秘密の不正利用や商品形態の模倣、虚偽表示など、さまざまな不正競争行為を禁止しています。不正競争行為が発生した場合、違反者には厳しい制裁が科されるだけでなく、被害者もさまざまな救済措置を利用することができます。

本稿では、不正競争防止法違反に対する制裁の内容、刑事および民事責任、そして被害者が取るべき救済手段について詳しく解説します。企業や事業者が法的リスクを回避し、被害を最小限に抑えるための知識としてお役立てください。

 

1. 不正競争防止法の目的と対象行為

1.1 不正競争防止法の目的

不正競争防止法は、企業間の公正な競争を維持し、健全な経済活動を促進することを目的としています。この法律の目的は、主に以下の3点に集約されます。

  • 企業の正当な利益を保護すること:営業秘密やブランドイメージ、商品形態などを守ることで、企業が安心して経済活動を行える環境を整えます。
  • 消費者の利益を保護すること:虚偽表示や商標の不正利用を防ぎ、消費者が正確な情報に基づいて選択できるようにします。
  • 公正な競争を促進すること:不正行為を排除し、企業間で公正かつ自由な競争が行われる市場を維持します。

1.2 不正競争行為の種類

不正競争防止法が規定する不正競争行為は多岐にわたります。主なものとしては、以下のような行為が挙げられます。

  • 周知商品等表示混同惹起行為

他社の商品等表示と類似するものを使用し混同を引き起こさせる行為が違法とされます(第2条第1項第1号)。

  • 著名商品等表示冒用行為

他社の著名な商品等表示と類似するものを使用する行為が違法とされます(第2条第1項第2号)。

  • 商品の形態模倣
    他社の商品形態を模倣する行為も禁止されています。これにより、独自の商品デザインや機能を守ることができます(第2条第1項第3号)。
  • 営業秘密等の不正取得・利用・開示
    企業の技術情報やノウハウ、顧客リスト、限定提供データなどを不正に取得し、利用または開示する行為が違法とされます(第2条第1項第4号〜第18号)。
  • 虚偽表示
    商品やサービスの品質、価格、出所に関する虚偽の表示を行い、消費者を誤認させる行為も、不正競争行為に該当します(第2条第1項第20号)。

 

2. 不正競争防止法違反に対する制裁

不正競争防止法に違反した場合、違反者に対しては、刑事および民事の両面で制裁が科されることがあります。それぞれの責任について、以下で詳しく見ていきます。

2.1 刑事責任

不正競争防止法に基づく刑事責任は、特に営業秘密に関する違反行為に対して厳しい罰則が科されます。違反者が刑事罰を受けるケースは、故意に営業秘密を不正に取得、利用、開示した場合などが該当します。主な刑事罰の内容は次のとおりです。

  • 罰金刑
    営業秘密の不正取得や利用に対しては、自然人に対して最大で3,000万円の罰金が科される可能性があります(法人の場合、最大10億円の罰金が科されることもあります)。これは企業に対する経済的なダメージを考慮した重い制裁です。
  • 懲役刑
    営業秘密の不正利用や開示が特に悪質であると判断された場合、最大で10年以下の懲役が科されることもあります。罰金と懲役が併科されるケースも少なくありません。
  • 併科
    特に悪質なケースでは、罰金と懲役が同時に科されることがあります。これは営業秘密に対する違法行為が、企業の競争力や市場秩序に重大な悪影響を与えるとみなされた場合です。

2.2 民事責任

刑事責任に加え、不正競争行為を行った者には民事責任も発生します。被害者は、損害賠償請求や差止請求などの法的措置を取ることができ、これにより不正行為の影響を最小限に食い止めることができます。

  • 損害賠償請求
    被害者は、違法行為によって発生した損害について、加害者に対して損害賠償を請求することができます。不正競争防止法では、被害額の算定が難しい場合でも、加害者が得た利益を基準に損害額を算定できる規定があります(第4条)。これにより、営業秘密の流出や技術情報の不正利用による被害をより具体的に補償することが可能です。
  • 差止請求
    不正競争行為が継続している場合や、今後行われる恐れがある場合、被害者はその行為の差し止めを裁判所に求めることができます。これは、営業秘密の利用停止や商品の製造・販売の停止を命じる形で行われます。差止請求は、被害を拡大させないための迅速な救済手段として非常に有効です。
  • 信用回復措置請求
    虚偽表示などによって企業の信用が傷つけられた場合、加害者に対して信用回復措置(謝罪広告など)を請求することもできます。これにより、被害者の企業が失った社会的信用を回復させることが期待されます。

 

3. 被害者が取るべき救済手段

不正競争行為の被害者となった場合、迅速かつ適切な対応が求められます。ここでは、被害者が取るべき主要な救済手段を解説します。

3.1 早期発見と内部調査

不正競争行為が発生した場合、被害を最小限に抑えるために早期発見が非常に重要です。企業内で営業秘密の流出や模倣品の出回りを疑う兆候があった場合、すぐに内部調査を開始し、証拠を収集することが求められます。内部調査では、以下の点に注目することが重要です。

  • 営業秘密や商品情報の流出経路を特定する
  • 不正競争行為に関与した人物や組織を明らかにする
  • 被害の範囲や影響を定量化する

この段階で、弁護士や専門の調査機関と連携し、証拠保全を行うことが後の法的手続きにおいても有利に働きます。

3.2 法的手続きの開始

内部調査で不正競争行為の存在が確認された場合、次に法的手続きに移行します。主に以下の2つの手続きが考えられます。

  • 仮処分申立て
    仮処分は、訴訟が進行している間に損害がさらに拡大しないように、迅速な差し止めを求めるための措置です。例えば、営業秘密が引き続き不正に利用されている場合や、模倣品が市場に出回り続けている場合、仮処分を申立てることで、裁判所が一時的にその行為を停止させる命令を出すことができます。
  • 損害賠償請求訴訟
    損害が発生している場合には、加害者に対して損害賠償請求訴訟を提起します。この訴訟では、被害者が受けた損害額を立証し、加害者に対して賠償を求めることができます。先述のように、不正競争防止法では加害者が得た利益を基準に損害額を算定することが認められているため、証拠の収集が重要です。

3.3 和解交渉

不正競争行為に対する法的手続きが進行している場合でも、和解交渉が行われることがあります。和解交渉では、双方が納得できる条件で問題を解決することを目指します。損害賠償の金額や、差止措置の範囲などについて話し合い、裁判所外での解決を図ることが可能です。裁判よりも迅速かつ費用が少なく済むため、和解は現実的な選択肢となることが多いです。

 

4. 事前の予防措置

不正競争防止法違反による被害を防ぐためには、事前の予防措置が不可欠です。以下に、企業が取るべき主要な予防策を紹介します。

4.1 営業秘密の管理体制の整備

企業は、営業秘密を適切に管理する体制を整えることが重要です。営業秘密が流出した場合、適切な管理が行われていなかったと判断されると、法的保護が得られない可能性があります。情報の分類やアクセス制限、秘密保持契約(NDA)の締結など、厳格な管理体制が求められます。

4.2 教育と啓発活動

従業員に対する教育や啓発活動も重要です。特に、営業秘密の取り扱いに関するルールや、不正競争防止法に関する基本的な知識を従業員に周知徹底することで、無意識のうちに違法行為を行ってしまうリスクを軽減できます。

4.3 契約による保護

外部企業や取引先と営業秘密や技術情報を共有する場合、必ず秘密保持契約を締結し、情報漏洩があった場合の責任を明確にすることが重要です。契約による保護は、不正競争防止法に基づく保護を強化する役割を果たします。

 

結論

不正競争防止法に違反した場合、違反者には厳しい制裁が科される一方、被害者はさまざまな救済手段を利用して、損害を回復することができます。しかし、実際のビジネスでは、違反行為が発生する前に予防策を講じ、法的リスクを最小限に抑えることが非常に重要です。企業は、適切な営業秘密の管理体制を整え、従業員や取引先との間で法的なルールを徹底することで、不正競争から自身の利益を守り、公正な競争環境を維持することが求められます。

このような対応を取ることで、不正競争防止法違反のリスクを軽減し、長期的な企業の成長と競争力を確保できるでしょう。

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