令和5年商標法改正の概要
2025/03/17
Ⅰ. 他人の氏名を含む商標に係る登録拒絶要件の見直し
1. 改正の必要性
(1) 従来の制度
従来の商標法第4条第1項第8号では、他人の氏名を含む商標は、その本人の承諾がなければ登録できなかった。この規定の目的は、他人の人格権の保護である。
しかし、近年の裁判例を受け、特許庁はこの規定を厳格に運用しており、同姓同名の他人が存在する場合、すべての承諾を得られなければ登録が認められなかった。
(2) 改正の必要性
この厳格な解釈により、創業者やデザイナーの名前をブランド名として使用することが多いファッション業界などから、規制緩和の要望が高まっていた。
また、中小企業やスタートアップがブランド名を選ぶ際の制約が大きく、海外(米国、韓国など)との制度調和の観点からも見直しが求められた。
2. 改正の概要
商標法第4条第1項第8号を改正し、「他人の氏名」に一定の知名度要件を設けることとなった。
具体的には、以下のような調整が行われる:
- 需要者の間で広く認識されている氏名 のみを拒絶事由の対象とする。
- 知名度の低い氏名を含む商標 は一律に拒絶対象外としないが、無関係な者による濫用的な出願を防ぐため、出願者の事情を考慮する規定を設ける。
3. 改正条文の解説
(1) 改正後の商標法第4条第1項第8号
- 拒絶対象:「他人の氏名」のうち、特定の分野の需要者に広く認識されているもの
- 例外:他人の承諾を得ている場合や、政令で定める要件に該当する場合
- 悪用防止:無関係な者による濫用的な出願を排除するため、出願者の事情を考慮する規定を追加
この改正により、広く認識されていない氏名が含まれる場合でも、濫用的な出願でない限り登録が認められるようになる。
Ⅱ. 商標におけるコンセント制度の導入
1. 法改正の必要性
(1) 従来の制度と課題
現在の商標法では、以下のルールがある:
- 先行登録商標 と同一・類似の商標は、原則として登録できない(商標法第4条第1項第11号)。
- 商標が競合した場合、原則として最先の出願者のみ が登録を受けられる(商標法第8条)。
- 商標権の移転により類似商標が異なる権利者に属した場合、混同を防ぐ措置が講じられる(商標法第24条の4、第52条の2)。
このため、中小企業やスタートアップのブランド選択が制限される 問題があった。さらに、国際的にはコンセント制度が導入されており、日本の制度が企業の海外展開を妨げる要因になっていた。
(2) コンセント制度導入の必要性
- 商標選択の自由度を向上 させ、新規事業の展開を支援する。
- 海外制度との調和 を図り、日本企業の競争力を確保する。
- ただし、単なる当事者間の合意だけでは需要者の混同を防げないため、出所混同のリスクを慎重に評価する仕組みが求められる。
2. 改正の概要
商標法第4条に新たな第4項 を設け、先行登録商標の権利者の同意 があり、かつ出所混同のおそれがない場合 に限り、同一・類似の商標の併存登録を認める「コンセント制度」を導入する。
また、以下の関連規定を整備する:
- 先行登録商標の権利者の同意がある場合 の例外規定を新設(商標法第4条第4項)。
- 競合する商標出願がある場合に、当事者間の相互承諾による併存登録 を可能にする(商標法第8条の改正)。
- 商標権の移転後の混同防止措置 や、不正競争目的による使用の登録取消制度の強化(商標法第24条の4、第52条の2の改正)。
3. 具体的な改正内容
(1) 商標登録の例外規定(商標法第4条第4項の新設)
- 先行登録商標の権利者の承諾 があり、
- 実際の使用において出所混同のおそれがない 商標は、登録拒絶の対象外となる。
- 審査では、取引の実情を考慮し、出所混同の可能性がないかを確認する。
(2) 競合する商標出願への対応(商標法第8条の改正)
- 異なる日付で競合する出願 → 先行出願人の承諾があれば、後行出願人も登録可能(第8条第1項)。
- 同日の出願が競合 → すべての出願人が互いに承諾し、混同のおそれがない場合、併存登録が可能(第8条第2項)。
- 協議がまとまらず、くじで決定する場合 → くじで不利になった側も、承諾を得られれば登録が可能(第8条第5項)。
- 商標権の移転があった場合 → 移転後も先行登録商標の権利者とみなす(第8条第6項)。
(3) 商標権の移転後の対応(商標法第24条の4、第52条の2の改正)
- 類似商標が異なる権利者に属する場合 → 一方の権利者の使用が他の権利者の利益を害する場合、適切な表示を求めることが可能(第24条の4)。
- 不正競争目的で商標を使用した場合 → 何人でも登録取消審判を請求可能(第52条の2)。
- アサインバック(名義の一時変更)による登録回避を防止 → 悪用した場合も規制対象とする。
4. 他法との調整(不正競争防止法の改正)
- コンセント制度に基づく商標の使用が不正競争に該当しないことを明確化(不競法第19条第1項)。
- 営業上の混同を防ぐため、適切な表示を請求できる規定を追加(不競法第19条第2項)。
Ⅲ. 施行期日および経過措置
1.施行期日
改正法は 令和6年(2024年)4月1日 から施行。
- 経過措置
- 施行日前の出願には従来の規定が適用される。
- 施行日前から正当な目的で使用していた者 は、施行後も一定範囲内で継続使用が可能。
- 既に広く認識されている商標 については、地理的範囲に制限されず使用を継続できる。
- 商標権者との混同を防ぐ措置:継続使用者は、商標権者から適切な表示を求められる場合がある。
- 施行後に移転登録された商標 については、コンセント制度による登録が有効
まとめ
他人の氏名を含む商標の登録要件が緩和され、特にファッション業界やスタートアップにとって有利な環境が整う。一方で、悪用を防ぐための規定も加えられ、公平性を保つ仕組みとなっている。
日本でも「コンセント制度」 を導入し、商標の併存登録が可能になる。
- 企業のブランド選択の自由度向上
- 国際的な商標制度との調和
- 出所混同を防ぐための慎重な審査の導入
これにより、中小企業やスタートアップの知的財産活用が促進され、日本企業の競争力向上が期待される。
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