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第10回 不正競争防止法と知的財産権の重畳的保護

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第10回 不正競争防止法と知的財産権の重畳的保護

第10回 不正競争防止法と知的財産権の重畳的保護

2024/12/13

第10回 不正競争防止法と知的財産権の重畳的保護

1.はじめに

不正競争防止法は、日本において事業者間の公正な競争を守るための重要な法制度です。同時に、知的財産権(特許権、商標権、意匠権、著作権など)もまた、創造性やイノベーションの保護を目的としており、企業活動における競争力を支える基盤となっています。しかし、不正競争防止法と知的財産権は、同じ目的を共有しつつも、異なる観点からアプローチしています。本稿では、不正競争防止法と知的財産権の交錯する領域に焦点を当て、それぞれの法制度がどのように補完し合い、または競合するのかについて詳しく見ていきます。

 

2.不正競争防止法と特許権の関係

(1)特許権による保護

特許法は、新規性・進歩性がある発明に対して独占的な権利を付与し、特許権者に一定期間、発明の独占的な利用を認めます。特許権の保護対象は、技術的なアイデアやプロセスであり、発明が公開されることを前提に、発明者に対して一定期間の独占権が保障されます。

(2)不正競争防止法による補完

一方、不正競争防止法では、営業秘密の漏洩や不正な利用を防止する規定があり、特許権ではカバーしきれない部分を保護します。営業秘密は、秘密として管理され、かつ有用である情報であれば対象となり、技術情報に限らず、顧客リストや営業戦略などの非公開情報も含まれます。特許権では技術が公開される一方で、不正競争防止法は公開せずに秘匿している情報の保護を目的としています。

(3)両者の競合と実務上の選択

企業は、発明や技術を特許として公開するか、営業秘密として秘匿するかの選択を迫られることがあります。特許として登録すれば、一定期間の独占権が得られる一方で、技術が公開されてしまうため、競合他社が技術を参照して改良を行う可能性があります。対照的に、不正競争防止法に基づく営業秘密として保護する場合は、秘密が漏洩しない限り保護が続くものの、秘密管理の体制が不十分であった場合には保護が認められないリスクもあります。

 

3.不正競争防止法と商標権の関係

(1)商標権による保護

商標法は、商標(ブランドや商品名)を他者が無断で使用することを防止するために、登録商標に対して独占的な使用権を与えます。商標権は、商品やサービスの出所を明確にし、消費者に対する信頼性を維持するために重要です。商標法の保護は、あくまで登録された商標に限定されており、未登録の商標や周知性がない名称については保護が及ばない場合があります。

(2)不正競争防止法による補完

不正競争防止法は、周知性のある商標や商品形態の模倣行為に対して、商標法の枠外での保護を提供します。たとえば、登録されていない商標であっても、特定の地域や業界で周知性が認められる場合、不正競争防止法第2条第1項第1号に基づいて保護を受けることができます。また、商品そのもののデザインやパッケージなど、商標権では保護されない「商品等表示」の模倣も不正競争防止法で規制されています。

(3)両者の競合と活用

商標権と不正競争防止法は、商標や商品表示の保護において互いに補完関係にあります。商標権は登録によって明確な保護を得ることができるため、安定した権利を主張しやすいですが、未登録の商標や、独自のデザインを保護したい場合には、不正競争防止法を活用することが有効です。企業は、商標権による保護が十分でないと判断した場合、不正競争防止法による保護を並行して主張することが実務的に有効です。

 

4.不正競争防止法と意匠権の関係

(1)意匠権による保護

意匠権は、製品の形状や模様といった視覚的なデザインを保護する権利です。登録された意匠を無断で模倣した場合、意匠権侵害として法的責任を問われます。意匠権は、製品の差別化やブランドイメージの確立に貢献します。

(2)不正競争防止法による補完

不正競争防止法は、意匠権の対象とならない未登録の商品形態の模倣など、意匠権だけでは保護しきれない行為に対して、補完的な役割を果たします。特に消費者の認識において、商品の形態(形状や外観)がその商品と結びついている場合、他者がこれを模倣して製品を販売する行為を規制するものです。

(3)両者の補完関係

意匠権は、登録されたデザインを厳密に保護しますが、登録前のデザインや、意匠権の対象外となる部分については、不正競争防止法が保護の対象となることがあります。両法を組み合わせることで、より幅広く自社のデザインを保護することが可能となります。

 

5.不正競争防止法と著作権の関係

(1)著作権による保護

著作権は、創作された文学的・芸術的な作品に対して自動的に発生する権利であり、創作者の利益を守ります。著作権は、作品の具体的な表現に対して与えられ、思想やアイデアそのものは保護されません。たとえば、文章や図面、音楽、映像などが著作権によって保護されますが、アイデアやコンセプトそのものは自由に使用されます。

(2)不正競争防止法による補完

一方で、不正競争防止法は、著作権で保護されていない領域に対して補完的な保護を提供します。著作権では保護されないアイデアやノウハウが営業秘密として扱われる場合、不正競争防止法によって保護されることがあります。また、著作権法では「著作物」に該当しない商品やサービスの形態が、不正競争防止法に基づいて保護される場合もあります。特に、商品デザインや形状が他者によって模倣された場合、著作権ではなく不正競争防止法によって救済されることがあります。

(3)両者の補完関係

著作権は作品の具体的な表現を保護するのに対し、不正競争防止法は営業秘密や商品形態、アイデアの流用に対する保護を提供するため、両者は異なる視点から創作活動を支援しています。特に、著作権では対応できない営業秘密の漏洩や、模倣品の製造販売に対しては、不正競争防止法が有効な手段となります。

 

6.複数の法制度をまたいだ保護の実践

(1)法制度の選択と実務的対応

企業が自身の技術やブランド、創作物を保護する際には、特許法、商標法、意匠法、著作権法、不正競争防止法などの複数の法制度を戦略的に活用することが重要です。各法制度は保護の対象や範囲が異なるため、どの制度を選択するかがビジネス戦略に大きな影響を与えます。

例えば、技術を特許として公開することにより、ライセンス収入を得ることができる一方で、特許出願前に営業秘密として保護し、市場に先行する戦略も考えられます。また、商標権で保護できない商品デザインを意匠権や不正競争防止法で補完するなど、複数の法制度を組み合わせることが実務上有効な場合も多くあります。

(2)ケーススタディ:企業の保護戦略

ある企業が、革新的な製品を市場に投入する際、その製品の技術的側面は特許として保護し、製品デザインやパッケージは意匠権として保護しました。さらに、ロゴデザインは商標権で保護し、競合他社による模倣が確認された場合には、営業秘密・商品等表示・商品形態などについて不正競争防止法を併用して法的措置を講じました。このように、企業が自らの知的財産を多角的に保護するためには、各法制度を理解し、効果的に利用することが必要です。

 

7.結論

不正競争防止法と知的財産権は、企業の競争力を守るための重要なツールです。それぞれの法制度は、特定の保護領域において強力な手段を提供していますが、全ての状況に対して単独で十分な保護を提供できるわけではありません。そのため、企業は状況に応じてこれらの制度を補完的に活用し、知的財産の重畳的・多角的な保護を実現することが求められます。

 

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