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不正競争防止法違反事件(タレント情報不正持出し)

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不正競争防止法違反事件(タレント情報不正持出し)

不正競争防止法違反事件(タレント情報不正持出し)

2025/02/13

2月3日付で報道各紙が「タレント情報不正持ち出し事件の容疑者逮捕」を報じました。

事件の概要

警視庁築地署は、不正競争防止法違反(営業秘密領得)容疑で、元タレントキャスティング会社プロデューサーの36歳の容疑者を逮捕しました。同容疑者は、勤務先から俳優やタレントらの契約情報など数百件のデータを不正に持ち出した疑いが持たれています。各紙は容疑者を実名で報道しています。

事件の詳細

容疑者は、2023年10月30日に東京都足立区内のインターネットカフェで、勤務先のタレントキャスティング会社がクラウド上で管理していた契約情報などのデータをダウンロードし、USBメモリーに保存した疑いがあります。

持ち出されたデータには、出演料や契約金のほか、「バラエティー番組はNG」といったタレントの意向に関する情報も含まれていたといい、警視庁は容疑者の動機や経緯を調べています。

容疑者は、事件の翌日に会社を退職し、同業他社に転職しており、警視庁は持ち出されたデータが転職先で利用される可能性も視野に捜査を進めています。

<不正競争防止法の解説>

不正競争防止法は、企業活動における「公正な競争」を保護し、市場における健全な競争環境を維持するために制定された法律です。この法律は、企業間の競争が過度に不公平なものにならないよう、特定の不正な行為を規制し、被害者に対して救済措置を提供する役割を担っています。

この事件で持ち出された情報は、営業秘密に該当します。

営業秘密は、企業や組織が持つ情報の中で、公開されていない技術的または営業的な情報を指し、その保護が不正競争防止法の主要な目的の一つとなっています。営業秘密は、他社に知られることなく競争力を維持するために、企業が秘匿する必要がある重要な情報です。具体的には、製造プロセス、製品設計、顧客リスト、マーケティング戦略、価格設定、研究開発データなどが含まれます。

営業秘密は、特許権や商標権のように公式な登録手続きを必要とせず、企業の内部管理によって保護されます。しかし、法律で保護されるためには、特定の要件を満たす必要があります。この要件を満たすことで、営業秘密として法的に保護され、不正取得や不正使用に対して企業は法的な救済措置を講じることができます。

1.営業秘密の定義と要件

営業秘密が法的に保護されるためには、不正競争防止法第2条第6項に基づく3つの要件を満たす必要があります。この要件は「秘密管理性」「有用性」「非公知性」の3つです。

2.刑事・民事の責任

不正競争防止法では、営業秘密の侵害行為に対して刑事責任および民事責任が追及されます。刑事責任では、営業秘密の不正取得や使用、開示を行った者に対して、5年以下の懲役または5,000万円以下の罰金が科される場合があります(法人の場合は3億円以下の罰金)。これにより、営業秘密の侵害行為を行う者に対する強力な抑止力が働きます。

また、民事責任としては、営業秘密の侵害によって損害を受けた企業は、侵害者に対して損害賠償を請求することができます。さらに、営業秘密が不正に使用され続けることを防ぐために、裁判所に対して差止請求権を行使し、侵害行為の差止を求めることができます。

3.企業内の営業秘密管理体制

法的保護を効果的に受けるためには、企業自身が内部で適切な営業秘密管理体制を整備することが不可欠です。企業が営業秘密を保護するために講じるべき対策には以下のものがあります。

  1. 社内教育

従業員に対して営業秘密の重要性と、それを守るための具体的な方法について定期的に教育を行うことが必要です。これにより、従業員が無意識のうちに情報を漏洩するリスクを減らせます。

  1. アクセス権限の設定

営業秘密にアクセスできる社員や関係者を必要最小限に限定し、社内システムでアクセス履歴を記録することが推奨されます。

  1. 秘密保持契約(NDA)の導入

従業員や取引先と契約を結び、情報漏洩に対する法的責任を明確にします。

これらの対策を講じている企業は、万が一情報漏洩が発生した場合にも、裁判において営業秘密としての保護を受けやすくなります。

4.営業秘密の侵害が発生した場合の対応

営業秘密が侵害された場合、迅速かつ適切な対応が求められます。侵害を放置すると、情報がさらに拡散し、企業にとって回復不能な損害をもたらす可能性があるため、以下のステップに従って対応することが重要です。

(1) 内部調査の実施

まず、情報漏洩の発生状況を確認し、どの範囲の情報が漏洩したのか、どのような経路で外部に流出したのかを調査します。社内システムのログデータや従業員の動向、外部関係者との取引履歴などを基に、事実関係を正確に把握することが重要です。

(2) 法的措置の検討

営業秘密の侵害が確認された場合、不正競争防止法に基づいて法的措置を検討します。具体的には、差止請求損害賠償請求が主な手段となります。

  •  差止請求

裁判所に対して、営業秘密の不正使用や開示を直ちに停止するよう命じる判決を求めます。これにより、情報がさらに広がることを防ぐことができます。

  •  損害賠償請求

営業秘密の侵害によって企業が受けた損害に対して、金銭的な賠償を求めることができます。特に、情報が不正に使用されて競合企業に顧客を奪われた場合、企業の逸失利益が大きいため、適切な賠償が求められます。

 

まとめ

営業秘密の保護は、企業の競争力を維持するために極めて重要な課題です。企業は、営業秘密を適切に管理し、不正競争防止法に基づく法的保護を受けるための体制を整備する必要があります。また、侵害が発生した場合には、迅速な対応が求められます。本稿で紹介した要件や法的保護の仕組みを理解し、実際の企業活動に反映させることが、長期的な競争優位を築くための鍵となります。

 

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 営業秘密管理規程を整備し、それに基づく管理体制を構築することが大切です。

営業秘密の管理規程整備や運用体制について当社当事務所でコンサルティングを行っています。

お気軽にご相談ください。

 

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